純情チェリーボーイ Captain HIMBA 第1話
―とある魔界―
「ぐう・・・ぐう・・・」
「・・・テン!」
「・・・・・・プテン!」
「ぐごぉ〜・・・うー・・・谷間にかいた汗のにおい・・・くんかくんか・・・むにゃむにゃ」
「キャプテン!!」
「はっ!!」
「ようやく起きましたか・・・おはようございますキャプテン」
「むう・・・せっかく良い夢を見ていたというのに」
「谷間のにおいを嗅ぐなんてさすがキャプテンですね、相変わらず今朝も童貞臭が凄まじくてなによりです」
「ぶっとばすぞコラ」
爽やかな淫夢を邪魔された俺は、しぶしぶベッドから身を起こす。
「今日から嫁探し始めるって昨晩言ってましたよね、さぁ行きますよ。あなたももうすぐ三十路、側近の僕としてもそろそろ幸せになってもらいたいものですから」
そう。俺は来年ついに三十路を迎えてしまう。しかし、なにを隠そう俺は・・・未だ童貞なのだ。
それどころか彼女が出来たことすら無い。
そんな俺は、嫁探しの旅に出る、と昨晩言った・・・らしい。
どうせ酔いに任せて適当に吐いた戯言だ・・・そんなこと今更始めたところで無駄だ。
嫁探し・・・結局のところ、ただのナンパの旅。ナンパなんてできる勇気があれば、俺は今頃楽しいリア充生活を送っていたことだろう。
「あー、そんなこと言ったっけ〜?いーよめんどくさいし。明日からやるから今日は寝る。おやすm」
デュクシ
「ぐほっ!?〜〜〜ッ!!」
無防備な股間にかかと落としを喰らい、俺は悶える。
「キャプテン、僕はあなたが『今日は朝8時には出発する』って言うからわざわざ早起きしてたんですよ。なのにあなたという人は・・・」
時計を見る。時刻は10時半。どうやらこいつは2時間半も俺を起こそうと努力していたらしい。
「はぁ・・・わかったよ、行けばいいんだろ、行けば」
「さすがキャプテン、話がわかって助かります(ニコニコ)」
・・・こいつが笑顔を携えている時は大抵ロクなことが無い。素直に言うことを聞いておくべきだ。
おもむろに立ち上がる。
「さて・・・んじゃー人間界にでも行くか」
「さすがキャプテン、やはりそうきましたか」
「人間の女は可愛いからな・・・俺達魔族と違って純粋に美しい」
俺達魔族は一応「人間のような」外見をしている。しかしそれは魔力のせいでそう見えるだけで、変化を解くとおぞましい姿となる。
俺は変化を解くと四角い目、歪な手足、そして真っ青な肌をしたグロい外見をしている。側近のこいつ――パプールは四つの目玉、二つの口、それでいて手足が無く、出来損ないのダルマのような外見だ。
魔界の女達も同様で、普段は美しい外見をしてはいるが、実際中身はわけのわからない気持ち悪い生物である。
しかし人間は違う。変化しているわけで無いから真に美しい。
「ではさっそく時空ゲートへ向かいましょう」
人間界へと繋がるゲートへ向かう。ちなみに魔力の小さい魔族は人間界に行くと変化した姿を保てず、本来の姿となる。俺達は大丈夫だが。
「雑魚悪魔は気軽に人間界に行けなくて残念ですね〜」
「そうだな・・・人間は残酷だぜ、素の俺達を見たら容赦の無い言葉で罵ってきやがる」
「まぁ、キャプテンはまだ人っぽいからいいんじゃないですか?僕なんてアレですよ。ダルマもどきですよ。目玉四つってなんですかコレ?全部正面に付いてたってなんも意味ねーだろオイ。口だって二つあったところで何の役に立つんだよ。あームカついてきた俺明日から魔界滅ぼす」
「しらんがな」
そんなこんなで雑談している内に人間界に到着。
「くっくっく・・・さすがは人間界。可愛い子のバーゲンセールですね」
「そうだな・・・」
人間界には可愛い女の子がたくさんいる。悪魔の力さえあれば強引に言うことをきかせるのは容易。まさによりどりみどりである。しかし、俺の足はすくんでいた。
「キャプテン?どうしたんです?」
「ん・・・ああ・・・なんでもない」
「そうですか。僕あっちに好みの女がいるんで行ってきますね」
そう言ってパプールは俺を置いて一人で行ってしまった。
ナンパなんてした事の無い俺はその場で立ちつくす。
「・・・ゲーセンでも行くか」
そうして嫁探しに来たはずの俺は、何故かゲーセンでドラムマニアに粘着していた。
以前人間界に来た時興味本位に触れてしまって以来、俺はこのゲームの虜になってしまっていた。
「よっし、グレ4個も減ったぞ・・・」
テンキューフォープレイーング チャリン バシューン
「・・・」
これでいいんだ。俺はもう今更彼女なんて作る気は毛頭無い。ドラムマニアをプレイしているだけで楽しい。
性欲処理なんざ自分で抜けば事足りる。パプールには悪いが、俺は俺のやりたいことをやらせてもらうぜ。
「あの・・・」
不意に何者かに背後から声をかけられる。
「えと・・・さっきから並んで待ってるんです・・・けど・・・」
「あー、今俺DD2のグレ削りで忙しいから。別のゲーセン行ってくr・・・」
振り向きながら言ったセリフは中断された。
そこにいたのは、女の子だった。13〜14歳くらいか。黒髪ショートの可愛らしい少女。
「あ・・・えっと・・・その。すまんな、もう少し待っててくれ。すぐ終わらせっから・・・」
そう言って俺はリスキー1を付けてデイドリを4連奏した。
eパスを抜き、椅子から立ち上がる。
「ほ、ほらよ。連コなんてしちまってすまなかったな」
「い、いえ・・・わざわざリスキー付けてわざと落ちたりしてくれなくてもよかったのに・・・すみません」
「べべべ別にそんなんじゃねーよ。ただデイドリのグレ削りしたかっただけだ。それにもともと俺が連コしたのがわりーんだからよ、気にすんな」
「は、はい・・・ありがとうございます・・・///」
少女は頬を赤らめると俯いてしまった。そしてそのまま背を向け、筺体の前に座りゲームを開始した。
「・・・」
俺はずっと彼女のプレイをじっと見ていた。
彼女はプレイを終えるとこちらに向かって一礼し、そのまま帰ろうとした。
「待ってくれ!」
「えっ・・・〜ッ!?」
俺は無意識の内に彼女の手を掴んでいた。
「あ・・・あの・・・」
そしてまた、無意識に口走っていた。
「俺と・・・セッションしてくれ!!」
「・・・はい?」
―続く―